『ライオンと魔女』はシリアスな場面が多いのですが、笑えるシーンもあります。
このあとでビーバーに連れられて一行がビーバーのダムを見るんですが、スーザンが儀礼的に、「なんてすてきなダムなんでしょう!」と言うと、顔につつましい表情を浮かべていたミスター・ビーバーはこのときばかりは、「しーっ!」と言わずに「たいしたことはありません! たいしたことはありません! まだ完成もしてないんです!」なんて言うシーン。
ナルニアではじめての、ユーモラスなシーンです。氷だらけの湖に対して、「自分の丹精した庭を案内するときや、自分の書いた物語を読み聞かせるときに人がよく顔に浮かべる」表情を、ビーバーが浮かべる。想像すると笑えます。
ものを言う動物、というのも奇妙でしたが、これで一気にわたしはビーバーさんを身近な存在として感じることが出来ました。
白い魔女が迫ってきており、恐ろしい魔法で氷漬けになった湖を、誇らしげに、つつましげに、紹介するミスター・ビーバー。スーザンの世渡り上手というところもよく描写されていて、ここでもキャラクターの描きわけがしっかりされています。
わたしが『ナルニア国ものがたり』を好きなのは、こういう細かいところなんですよね。生き生きとした登場人物、どんな端役にもリアル感があります。そこでちゃんと「生きて」いるんです。うらやましい才能です。